Sweet Lover
美味しい食事をソルベで閉めた。

「満足した?」

響哉さんの質問に、満面の笑顔でこくりと頷く私。

「それは良かった」



「あ、あの。
 キョーヤさんですよね」

無遠慮な女性の声が食後の穏やかな雰囲気を、ぶちやぶった。

響哉さんはそちらを見ることもなく立ちあがると私の手を取った。

「私、すっごくファンなんですっ。
 あの、握手だけでもしていただけませんか?」

響哉さんは一瞬躊躇いの表情を浮かべると、諦めたように私から手を放して、彼女の方を見た。

「プライベートなんで、申し訳ない。
君と握手をするのは簡単だが、結果的に他の人たちからも囲まれるかもしれないと思うと、気が乗らない。
今度、大々的にキャンペーンをやる予定だから、そのときには是非」

艶やかなテノールの声。
ただ、そこに慈悲のようなものは感じられても、それ以上の感情の色は伺えなかった。

「では、失礼」

響哉さんはそう言うと、半ば強引に私の手を掴み、引きずるようにレストランから連れ出した。
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