Sweet Lover
マンションに戻って、響哉さんと雑談をしていた。
テーブルを挟んで、ソファに座るその距離感が、今の私にはちょうど良かった。

「どうしてキスが怖いのかな? 何か嫌なことでもあった?」

何かの話のついでに、思い出したかのように響哉さんが問う。

「わかんないの。
 あの衝撃感がダメなのかなぁ。テレビとか見てても、キスシーンは目を逸らしちゃうし。漫画でキスシーンみても、さっぱりときめかないし、結局元彼ともキスできなかったし」

あまりにも自然な流れだったので、私もつい、友達にでも話すかのように口を滑らせてしまった。

「……元彼?」

あ、響哉さんの声が低くなった。
まずい、失言しちゃった?

「だから、付き合おうって言って、一週間後には別れたけど。キスされそうになって怖くて逃げ出して……」

思い出すだけで、息苦しくなる。

響哉さんは私の隣に来ると、大きな手でそっと頭を撫で、まるで催眠術にでもかけるかのように、耳元で囁いた。

「俺とだけはキスできるように変えてやるから心配するな」


……えっと。
なんとなく、それはそれで心配です。
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