夏に咲く桜 海に広がる静空
暗闇の中にいた私に、光が差し込んだようだった。



このことで手術の成功率が上がるということはない。



だけど、夏に桜が咲くことが奇跡ではない。

それだったら、手術が成功するのも奇跡ではない。



そう思えることが、どんなに私を楽にさせてくれただろう。


「ありがとう」


彼はコンクリートのところまで優しく私を導いてくれ、ゆっくりと背中を押してくれた。



奇跡があるとすれば、私たちがここで出会えたことが奇跡だろう。


「待っているよ。

いつまでも、この海に広がる静空の下で待っているから」


私は左手の夏桜を崩さないように、自分の道を力強く歩もうとした。
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