夏に咲く桜 海に広がる静空
波の音が体に吸い込まれる。



潮の香りが体に染み渡る。



そこに広がる夏桜の絨毯にゆっくりと腰を下ろし、一つだけ摘んで目の前に持ってくる。

まだ花が咲くには早く、そのときがくるためにしっかりと根を生やしている段階だ。



海辺に面しているこの町は夏こそ観光客で賑わうが、それ以外は全く閑散とした町だった。

高校のクラスメイトも大半が隣の県庁所在地となっている市へと就職するか、県外に進学するかで、ここに残る者はほとんどいなかった。

そんな希少価値の一人が俺なのだが・・・



県外に進学して、綺麗に埋められる一ピースを探すことも考えたが、そのために両親に多額の授業料を払わせるのは気が引けた。

それだったら、実家の旅館で働きながらでも探せるのではないかと思った。
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