夏に咲く桜 海に広がる静空
波の音とともに、何やら鞄の中から探すような音が聞こえてきた。

彼女はその何かを見つけて取り出し、顔の前でそれをひらひらとさせた。


「ただいま」


ピンクに咲いた花びらを持つ夏桜、それを押し花にしたしおりだった。



しおりの向こうでは彼女が屈託のない笑顔でこちらを見ていて、僕はそれに対して右手で頭の後ろを掻きながら笑顔を作った。


「おかえり」


俺なんかが言っていい言葉かどうかも分からなかった。



だけど、言わないよりは言ったほうがいい。

そんな単純な考えから、迷わずにこの言葉を口にした。
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