夏に咲く桜 海に広がる静空
右手に彼女の手の温もりが伝わってくる。

その温もりはたどたどしく探し当てるのではなく、真っ直ぐに俺の右手へと辿り着いてみせた。



目を閉じて、彼女がどれほどの苦労と努力をしてきたのかと想像してみる。

言葉にはできないくらい苦労をして、誰にも理解されないような努力も重ねてきたに違いない。

それは彼女だけが知ることではあるが、それは今の彼女にとってはどうでもいいことなのかもしれない。


「絶対に来るって、信じてた」


目の前の海も静空も、大きく広がっている。

時にはそれは大き過ぎて、自分というものがよく分からなくなったときもあった。

だけど、この約束だけは絶対に忘れることはなかった、分からなくなったことはなかった。


「待ってくれているって、信じてたよ」


彼女は夏桜をゆっくりと摘み取り、それを優しい眼差しで見つめ出した。

しおりの夏桜と違い、それには花は咲いていない。

それでも、奇跡ではなく夏になれば必ず花は咲く。



そう、今ここで二人がまた並んでいるように。


「あなたがくれた奇跡、夏に咲く桜。

その花言葉は・・・」
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