砂の鎖
教室に入ればすぐに待ち構えていた麻紀に首ねっこを押さえられた。


「やーだ。ラブラブ~亜澄、同伴出勤?」


教室から見えてたよ、と。
そんな言葉を耳元でささやかれる。


「麻紀……おはよ……」

「さすが女王の娘。血は争えないね。この底辺高校で最高の上玉手に入れるなんて」

「……まあね?」

「うわ。ムカつく」


思わず二人でけらけらと笑った。

麻紀は、人付き合いが余り得意では無い私の唯一に近い友達だ。
気兼ねなく悪気ない、麻紀の口の悪さが私は嫌いじゃない。


ママは、この町でちょっとした有名人だった。
私が小学生の四年生になった頃、小さいけれどこの町の飲み屋街に店を持って言葉通り“ママ”になった。
それよりも前は都心の小さなアパートで暮らしていた。
そこそこ売れっ子だったらしい。

この大きくない町で、都会で荒稼ぎして店を構えたシングルマザーの夜の蝶。
ママは格好の噂のネタだった。

そんな彼女が娘と二人きりで暮らす家に若い男を連れ込んで、コロっと死んだのだからこんな面白い話は無い。


当然、ママが死んだ後、噂話は私が引き継ぐことになったわけだ。
『人の噂も七十五日』とかいうけれど、この町の人たちは三年経っても飽きることはないらしい。
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