砂の鎖

黄昏の空

東の空はもう昏い。
けれど西の空はまだ赤く色付いている。
空気が琥珀色に染まる時間。

薄暮に染まる世界はいつも優しくて、私を不安にさせる。
子供の頃からそうだった。

門限があるから、夕食の時間だからと同級生たちは残念がりながら手を振り帰っていく。
私はいつも、スーパーで食材や日用品を買って、誰もいない家に帰る。
その時私が考えていた事は冷蔵庫の中身と夕食と店で出す先附のメニュー。
ママの店のシフトや洗濯、掃除、ゴミ出しについて。
一日の中で一番頭を使ってどうしたら効率よくできるか考えていた。


そうしていたのはもしかしたら、寂しかったのかもしれない……


子供の様なママが、私の為に働いていることは分かっていた。
だから私は、ママに寂しいと訴えることはできなかった。
そんなことで泣いたりワガママを言って困らせる事はできなかった。

それでもみんなが家路につく時、飼い慣らした筈の寂しさがゆっくりと頭をもたげ。

それに心を支配されないように、私は家事のことばかり考えていたのかもしれない。



そして染みついた思考は、今も同じだ。
黄昏時はいつも私は頭を悩ませている。

昨日も今日も買い物には行かなかった。だから冷蔵庫にろくなものが入っていない。
けれど里芋が買ってあった上にジャガイモをもらってしまったから……
根菜類はまだまだ残っている筈だ。

冷蔵庫の中身を思い出し、昨日の残りを思い出し、夕食の献立を考える。

拓真は何時ごろ帰ってくるだろうか。
拓真が帰ってきてから洗濯機を回そう。
時間を気にせず洗濯ができるのは一軒家の特権だ。

明日は資源ゴミの日だからゴミをまとめておかないといけない。
月に一度しかないから忘れたら大変だ。
ビンを色分けするのが面倒だけど……はす向かいのおばあさんはゴミ出しにうるさいからちゃんとしておかないと……


やることは沢山ある。
早く帰らないといけない。
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