砂の鎖
美由紀さんがいなくなって、私は初めて考える時間を与えられた。
これから私は、一体どうしたらいいのだろうと。

だから主がいなくなった暗いリビングで拓真に聞いた。

『拓真はいつ出ていくの?』と。

そんな私の声に、拓真は驚いたように一瞬目を丸くして、それから私を抱きしめて声を上げて泣いた。
ママが倒れたとき、ずっと私の肩を抱き、大丈夫だとママに声を掛け続けていた拓真が。
ママが死んだとき、ママの手を握り、とても静かに涙を流していた拓真が。
声をあげて泣いた。


『俺は、あずの傍にずっといるから……』


それから、拓真は何度も何度も繰り返し言った。


『俺があずを守るから』


泣きながら、幼かった私に懇願するように、そう言った。



それから私は、いくつかの事実を拓真から聞かされた。

拓真とママは恋人では無く、入籍をしていたこと。
拓真と私はつまり、義理ではあるが親子であること。

そしてママは、一年も前に癌の告知を受けていて、自分が死ぬことを知っていたということ。
そして拓真は、そんなママと結婚したのだということ。


それらの事実は、ママが死んだこと以上に私を傷つけた。


『どうしてそんな大事なこと……私に黙って死ぬのよ!!』


私はその時、初めて怒りを感じた。
その時初めて、私を置いて死んだママを詰った。
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