砂の鎖
雨の日の憂鬱
遠くから、まだ降り出さない雨の匂いがした。
その日は朝から曇り空で、天気予報で夕方から雨が降ると言っていたことを頭の隅で少し思い出した。
図書室の隅。私はしゃがみこんで分厚い本をそっと抱えた。
心臓は何かとても見てはいけないものを見るかのように静かに、確実に高鳴っていて。
誰にも見つからないように、音を立てずにそっと薄紙をめくる。
手が切れそうな程に角が立った薄い上質な紙に、明朝体の小さな文字がずらりと所狭しと並ぶ。
わざと分かりにくく書いてあるのではないかと思えるほどに分かりにくいその文章を、そっとなぞる様に目で追った。
そこに書いてある内容は、何度見ても変わらない。
「亜澄、いる?」
静かな図書室にも、今日の湿った空気にも似合わない、カラリと晴れた高い声。
その声に、私はびくりと肩を竦め、それから慌ててその本を閉じた。
思いのほかその本は大きな音をたてて、それと同時にずしりと片手が重くなる。
「……麻紀? どうしたの? 部活は?」
私の数少ない友人だ。
「もう最悪。降られちゃってさ」
顔を顰める麻紀の髪は濡れていて、肩からタオルをかけていた。
「雨、降りだしてたんだ」
「気が付かなかった? あんたの旦那の処は真面目だからまだ待機だと思うよ」
「そっか」
「健二は雨じゃ練習無くならないから。亜澄と待とうかと思って探しにきたの」
麻紀の声を聞きながら私は素知らぬ顔で本を棚に戻した。
指先に、赤い血が滲んでいた。薄紙で指を切っていたんだ。
痛むけれど、大したことは無い。
じわりと滲むその血を手の中に握り込んだ。
その日は朝から曇り空で、天気予報で夕方から雨が降ると言っていたことを頭の隅で少し思い出した。
図書室の隅。私はしゃがみこんで分厚い本をそっと抱えた。
心臓は何かとても見てはいけないものを見るかのように静かに、確実に高鳴っていて。
誰にも見つからないように、音を立てずにそっと薄紙をめくる。
手が切れそうな程に角が立った薄い上質な紙に、明朝体の小さな文字がずらりと所狭しと並ぶ。
わざと分かりにくく書いてあるのではないかと思えるほどに分かりにくいその文章を、そっとなぞる様に目で追った。
そこに書いてある内容は、何度見ても変わらない。
「亜澄、いる?」
静かな図書室にも、今日の湿った空気にも似合わない、カラリと晴れた高い声。
その声に、私はびくりと肩を竦め、それから慌ててその本を閉じた。
思いのほかその本は大きな音をたてて、それと同時にずしりと片手が重くなる。
「……麻紀? どうしたの? 部活は?」
私の数少ない友人だ。
「もう最悪。降られちゃってさ」
顔を顰める麻紀の髪は濡れていて、肩からタオルをかけていた。
「雨、降りだしてたんだ」
「気が付かなかった? あんたの旦那の処は真面目だからまだ待機だと思うよ」
「そっか」
「健二は雨じゃ練習無くならないから。亜澄と待とうかと思って探しにきたの」
麻紀の声を聞きながら私は素知らぬ顔で本を棚に戻した。
指先に、赤い血が滲んでいた。薄紙で指を切っていたんだ。
痛むけれど、大したことは無い。
じわりと滲むその血を手の中に握り込んだ。