砂の鎖
「……で、どーなんだよ?」


教室の前に差し掛かったところで突然聞こえた声に私たちは足を止めた。
誰もいないだろうと高をくくっていた教室に生徒が何人か残っていたらしい。

からかうように笑いを含ませながら言う声は聞き覚えのある男子生徒のものだった。


「須藤とどこまでいったんだよ?」


気にせず入口のドアを開けようとした手は、その言葉に思わず止まってしまった。
すぐに会話の事情を察したらしい麻紀は、少し楽しげな瞳で私を見た。


「……んなの、別にいいだろ……」


不機嫌に答える真人の声がした。

麻紀が私の脇を肘でつつく。
私は麻紀に、移動しようと目くばせをし、彼女の腕を引っ張ったけれど、麻紀はこの話が聞きたいらしい。
ガラスに映らないようにしゃがみこんで聞き耳を立て始めてしまった。
私は思わず、ため息を漏らす。


「いいじゃん。教えろよ!」

「須藤ってキツイけど美人だしなー。悪くないよな」


囃し立てる男子生徒に応える真人の声は聞こえてこない。

それはそうだろう。
“どこまで”なんて言える様なことは無いのだから。
期待される様なことも、刺激ある話題のネタも何もない。

私と真人はやっと、初めて、触れるか触れないかのキスをしただけ。
確実に周りの男子生徒が求めているのはそんな話では無い筈だ。
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