砂の鎖
「やべーだろそれ!」

「須藤さんのお母さんってあれでしょ? 男食い物にしてたっていう……お母さんに色々教わったりしたって……」

「それマジ!?」

「私が言ったんじゃないよ? 噂で聞いたんだけどね……でも親子揃って淫乱とか、ちょっと最低だよね」

「須藤ってクールぶっててすごいんだ。どうなんだよ真人」


坂道を転がり落ちるように、会話は不穏な熱を帯びて盛り上がっていた。


「お前らいい加減に……」


身じろぎすることなく静かに受け止められたのもここまでだった。

クスクスと楽し気に笑う声が聞こえてきたのと、真人の不機嫌な声が聞こえたのと同時だった。
私が扉をあけたのは。

ガラリと、突然した音にその場の視線は一気に私に集まった。


「須藤……」


一人、間が抜けたように声を出したのはその場にいた陸上部の男子生徒。
私は名前も分からない接点の無い生徒だった。

彼らは皆一様に髪とジャージを濡らしていて、雨に降られたせいで練習が中断されているらしいことは見て分かった。
込み合う更衣室を避け、教室で談笑しながら濡れた服と体を乾かしながら雨が降り止むのを待っていたのだろう。
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