砂の鎖
「リカちゃん!」


その途端、場違いな金切声と同時に教室のドアが勢いよく開いた。
突如現れたのは、綺麗なワンピースに身を包み、ブラウンの長髪を丹念にウェーブさた派手な装い。
それでも小太りな四肢と化粧では隠し切れない皺に年齢を隠し切れない中年の女性だ。


「……お母さん」


横井とよく似た顔立ちで、その声を聞かずとも横井の母親だと察しがついた。


「先生! どういうことですか!?うちの子が殴られたって!」

「横井さん、落ち着いて下さい」

「落ち着いていられますか! どういう教育をこの学校はしているんですか!? 当然相手の生徒は処分するんですよね!?」

「まだ事情を聞いてる最中ですので……」

「事情って! 先生はうちのリカちゃんが悪いとでも言うんですか!?」


キンキンと響く声が煩わしく、私は思わず眉を顰めてしまう。
二人の教師が横井の母親を宥める為私たちから目を逸らしたのをいいことに、横井は私を横目で見て一瞬口角を上げた。

嫌な女……

でもそうか。
……親に連絡が行っているのか……


「あなたがリカちゃんを殴った女子生徒?」


ああ……めんどくさい事になったな。
そう思いながら私は横井の母親の顔を見返した。


「須藤! お前なんだその態度は」


田中は熱血教師らしく激昂し、私は不貞腐れたまま横井の母親から視線を逸らし窓の外に目を向けた。
田中の言葉に反応したのは私ではない。


「……須藤? 須藤って、あの?」


横井の母親だ。
彼女は苦々しく真っ赤な唇と色付いた目元を歪に釣り上げた。


「はっ……親が親だと子供もどうしようもないのね」


汚いものを吐き捨てるように言ったその言葉。
……本当に、この母娘はよく似ている。
私はじっと、胸中に広がる黒い靄を押さえつけようと唾を飲み込んだ。


「先生。早く退学にでもして下さい! こんな子が同じ学校だなんて、安心して学校にリカちゃんを預けられません!」

「横井さん。ですから……」
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