砂の鎖
私は結局、昨日と同じ生活指導室で三日間の特別授業と生活指導を受ける謹慎処分になった。

生活指導は担任では無く学年主任で受け持ちクラスの無い佐伯が担当だ。

担任の熱血教師と顔を突き合わせる必要が無い事に、私は正直ホッとした。

担任の田中の『いつも問題を起こす』と言った偏見の言葉は私の心に棘の様に引っかかり、それまで同情的な目線で私に接していた田中の本性を見てしまったようで不信感が芽生えてしまったからだ。

そして逆に、『一般的な事象を個人に当てはめるな』と言った佐伯の言葉は、私の佐伯への好感度をあげる効果を持った。

拓真が来る前の昨日の指導室で、よくよく考えれば佐伯は唯一私を公平に見ようとしてくれた人物だったのだ。


そして自分の敵になる人間にむかつき、味方になってくれるかもしれない人間に好意を持つ自分の余りの幼稚さに気が付き、一人苦笑もしてしまった。

結局は拓真に謝らせることになった私は、子供だ。


「先生。私謹慎って自宅学習か自習だと思ってた」


更に言えばこの特別授業はかなり手厚くて、教師が空き時間に個人指導をしてくれるのだ。

全く同じ授業時間が取れるわけではないから四十人を相手にする通常授業に比べてかなりハイペースな講義だった。

けれど私はこの底辺高校ではトップ10には入れる成績だ。
当然他の生徒が問題を解き終わるのを待つ時間も無く、ふざける生徒に授業を中断されることも無いから圧縮された時間の中でも質疑時間まで生まれる状況だった。

確かに楽しくはないが、学習環境としては普段よりも恵まれているくらいだった。


「うちの学校の数少ない優秀な生徒の成績落とす訳にいかんだろう」


私の素朴な疑問に佐伯は当然のようにそう答える。

“教育”という観点ではどうなのだろう首を傾げる私に、佐伯は謹慎の目的は懲罰では無く更生だと、分かった様な分からない様な理屈をつけ足した。
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