砂の鎖
それでも、大学に行くとなればそれなりの資金が必要なわけだ。
ママの遺産と保険金はそれなりの額があったけれど、それで本当に足りるのだろうかとか、以前佐伯に言われたように特待や奨学金という制度が使えるのかとか。


そもそも私は、高校を卒業しても尚子供でいることが許されるのだろうか。
一体誰が、それを許すのだろうか……

高校に通ってほしいとママは拓真に話していた様だ。自分が行けなかった高校に行ってほしいと。
中卒で苦労したママがそう言ったことは想像できる。

でもその先はママだって考えていなかったに違いない。ママの口から大学だなんて、余りにも似合わなくて想像できない。


考えることは山ほどあって、何から取り掛かればいいのか分からなかった。


まるで数学の応用問題の様だ。
複雑な図形を前に着目すべき個所を見失ったあの時の感覚とよく似ていて、それでも進路という問いに解説ページは無い。

私は取り敢えず一度考えることを放棄して、そして『進路希望用紙』と表題の書かれたプリントはそのままカバンに入れられたままになっていた。


「……佐伯先生は、割り切れるから数学の教師になったんですか?」


縋るように私は佐伯に問いかけた。

いつも、応用問題で躓いた時にヒントをくれるように、淡々と解法を解説するように。
何か彼の口から問題の糸口が掴めないかと期待を込めて。


「そう思うか?」


けれど佐伯は私にそう問い返し、分からないから聞いた私がその問いに答えられる事も何もなかった。
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