砂の鎖
「……ごめん」


真人は私から手を離し、僅かに視線を下げた。


「真人。謹慎中にかばってくれたって佐伯先生に聞いた。それはありがとう。感謝してる」


私は勤めて淡々と感謝を述べた。
それに、真人は傷ついた様に、少し眉を歪めた。
真人が一体何に傷つくって言うんだ。


「でももう付き合えない。真人も遊びでしょ?」


傷つくなら、私の方だ。

騙されて、遊ばれて、真人としたのがファーストキスだったんだから。

傷つく権利があるのは私の筈だ。


「亜澄さ、あの時、どうして俺じゃなくて横井を殴った?」

「……」


けれど真人の方が傷ついた表情をしているうのはどうしてだろう。

そして私は、今の今まで、真人に会うまで、真人のことなんて大して考えもしなかった。

私はあの時の、真人の言葉を思い出しもしなかった。


私は……


「俺の話は大して傷ついて無かったんだろ」


真人は自嘲気味に薄く笑う。

まるで私の心のうちを見透かすかのように。


「……私、先行くから」

「亜澄!」


私は真人を置いて自転車に跨った。
うちから学校までの道のりを、真人に説明する必要は無い筈だ。
真人はよく知っているから。



何度もこの道を、二人で歩いた。

何度もこの道を、この自転車に二人で乗って走った。

部活が終わるまで私は真人を待って、真人はそんな私を家まで送っていた。



私はぐっと、自転車のペダルを力いっぱい踏み込んだ。
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