LOVE SICK
***


(本当に、最悪……)


始業時間五分と少し前。
何とか滑り込みで間に合いそうだ。
時計を見ながらエレベーターホールでホッとしつつも溜息を漏らした。


会社はオフィス街というより繁華街のビルの中にある。

デパートも入っている高層ビルの7,8階の2フロアと打合せ用の部屋が主の1階が私が勤めている会社が借り入れている事務所だ。

商業施設とエントランスホールは当然別になってはいるが、他の企業も入っている。

私は人目を気にしながら、エレベーターを待ちの間にこっそりと淡く香るコロンをアトマイザーを吹きかける。
走ってきた汗と自分では気が付かないヤニの匂いを消す為に。


私の会社は始業時間が九時半と少し他社よりも遅い。
その上ギリギりの出社とあって、珍しくエレベーターホールには誰もいなかった。

やっぱり少し出遅れた。

始業時間20分前が一番のラッシュだ。


(なんで連絡先聞かなかったんだろう……)


けれどギリギりではあるけれど間に合いそうになった途端、私は別の事が気になって仕方がなかった。



さっき、仕事が終わったら待ってると言った私。
分かったと言った彼。

けど私は彼の仕事が何時に終わるかなんて、当然見当もつかない。


5時に終わるのかもしれないし、終電まで働いているような人なのかもしれない。
ひょっとしたらフレックス制で何時帰ってもいいということもあり得る……

それなのに『分かった』と言った彼が、その場をやり過ごす為だけに適当に口にしただけだろうなんて事はよく分かった。

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