LOVE SICK
「だって本当に嫌なの……」


次に聞こえて来た声にも又、聞き覚えがあることは想定の範囲内。
田中さんも石野さんと同じく、私と同じ最終学歴の持ち主だ。
二人が学生時代から割と仲がいい事も、私は知っている。
二人共派遣社員として働き始める前から学生時代この会社の紹介を通じてアルバイトをしていた。

そして石野さんは間も無く私との面談を予定している。
つまり石野さんがここにいる事はすぐに察しがついた訳だ。

ここで私は回れ右をするべきだった。
聞かなかった振りをするべきだった。


「っていうかね……あの女が嫌なの」

「は?」


“あの女”が誰なのかなんて、想像するのもとても簡単で……

何故ならスタッフが担当の社員を悪く言うのも派遣先を悪く言う事もよくある話。

それはそれ。
これはこれ。

そう割り切って公平に彼らを見ないと仕事なんてしちゃいられない。
そんな事はわかっていた。


「あの川井って担当者。男に色目ばっか使って。あーあ。斎木さんに担当者戻ればな……そしたら仕事に行く気にもなるのに……」


私は彼女がそう思っていることに気が付いていた。
そして割り切らないといけない事も分かっていた。

だから、思わずだった。
何も考えていない行動だった。


「ねえ石野さん。貴女何言ってるの?」


思わず、ドアを開けて声をかけてしまったのは……
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