LOVE SICK
「由奈」
その瞬間、耳に響いた低い声に何の意識も無くただ身体が勝手に振り向いた。
「パパ!」
先程の少女が嬉しそうに一人の男性に向かって駆け寄っている。
その人に、私の瞳は吸い寄せられる。
その先にあったのは。
その少女を見つめていたのは。
優しく微笑む、私が愛おしく思い始めたそのダークブラウンの瞳。
思わず触れたいと、幾度もその欲求に負けた、柔らかいダークブラウンの髪。
もう、見慣れてしまった人……
今迄私が見たいつよりも、慈愛に満ちて、愛おしそうに……
少女を見つめていた。
周りを気にする素振りも恥じらいも何も無く、少女は彼に抱きついた。
彼もまた、ためらいなく少女を抱き上げて嬉しそうに微笑んでいる。
幸せそう笑うその少女に、自分の底の浅さが、見えた気がした。
「全部、嘘なんだ……」
自分の声が、遠くから聞こえる様な気がした……