LOVE SICK
「おはよう。川井さん」

「田嶋くん……おはよ」


一日はまだ始まったばかりなのに……朝から何だか今日は疲れた。
朝から零れてしまう溜息と一緒にカバンを置くや否や同僚に声をかけられる。


「朝から眉間に皺。そんなんじゃ又派遣の女の子達の評判落とすよ。
川井さんただでさえ怖いんだから」

「なにそれ」


こいつもこいつで……
この会社には見て見ぬ振りって言うのが出来る人間は居ないんだろうか。

不機嫌さを見抜かれた事で更に不機嫌に田嶋君を睨んでしまう私。
これは完全に八つ当たりだということは分かっているし、田嶋君も私が分かっていることは分かってる。
だから彼は私の視線に笑うだけだ。


「川井は真面目なだけだろ。男の前では可愛いって。な?」

「……知りません」


そんな私たちのやり取りに笑いながら口を挟むのは斎木さん。
殆どセクハラ発言だ。

私は斎木さんに不躾な視線すら送らずに椅子に腰かけようととしたその瞬間。


「……川井さん」


美人で有名な事務兼受付嬢の山内さんが少しだけ控えめに私を呼んだ。

受付嬢なんて優雅な物、この会社には本当は無い。
けれど美人な彼女を外来から一番近い席に座らせ外来の殆どすべての受付を彼女の仕事にしているのは、どう考えたって雰囲気が華やぐからだ。


「はい」


苛々としていた私と控えめに話しかける美女。
その女力の違いは並べば歴然で虚しくなる。

世の中不公平だ。


「朝礼前にごめんね。カヤマコーポレーションからお電話が……多分、クレーム……派遣の女の子が出勤してないって……」

「また!?」


思わず、声を荒げてしまった。

彼女が申し訳なさそうな顔をする必要は一切無いのに……

肩を竦めた彼女に罪悪感がこみあげた。


「……すぐ出ます」

「川井。上手くやれよ」


途端に真面目な顔つきになって私に声を掛けるセクハラ上司。
私は彼をを憮然と見返した。


「斎木支店長。石野さんだったら、あの子今度こそ呼び出します」


「こえー」と呟いた田島くんをひと睨みして、電話に出た。




こうして、騒がしくも忙しい、いつも通りの一日がスタートする。


いつもより、少しついてないけど特に大きく変わらない。


そんな一日が……
< 14 / 233 >

この作品をシェア

pagetop