LOVE SICK
「なぁ、田嶋、今晩暇だよな」

「拒否権無いですよね。それ」

「まあな」


俺は基本的に斎木さんの誘いは断らない。
そんな俺は調子のいい斎木さんに合コンに連れ出されることは数知れず。

斎木さんはその場に狙っていた女性がいれば確実に落とすし、目ぼしい女性がいなければ確実にその場で一番の美人を持ち帰る。
更にこの人怖いなと思ったのはその後。


「こないだの飲み会に来てた女の子、うちと取引ある総合商社の常務の娘さんだぞ? お前気づいてなかった?」


プレゼン戦略かの様にサラッと打算めいた事を言う瞬間だった。
斎木さんが狙う女性は多くの場合、仕事上太いパイプになりそうな伝手を持った女性だ。


「なあ田嶋、今お前んちの下にいるからちょっと出て来いよ」


斎木さんほど貪欲に女性を利用してまで上り詰めようとは思わないし、斎木さんほど上に行こうという気概も無ければ自信もない。

だからせめて斎木さんの気が済むまでつき合おうと思っていたし、付いていけるところまでは付いていきたいと思ってはいた。

そうしてこの人がわざわざ迎えに来てくれる時は大抵、ツーショットで写真に収められた。


「また、ですか……」


俺は携帯を弄る斎木さんに呆れ気味にぼやいた。

こういう事は時々あった。

俺は断言できる。斎木さんのプライベート用の携帯電話のメモリーに最も多く保存されている写真に写る人物はどこの美人でもない。俺だ。


……要するに、斎木さんには複数の恋人がいるのが常だった。


斎木さんにとって一番の彼女は仕事上大事な付き合いの人。
次は面倒なことを言わない人。
その次が容姿が抜群にいい人。

後者二つは他人に恋人として斎木さんが紹介することはまずない女性たちだ。
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