LOVE SICK
「お前がアリバイ必要な時は協力してやるって」

「俺、彼女一筋なんで」


俺はそうは言ったものの、ちょっとうらやましいなという気持ちも無くはなかった。
だって俺はそんなモテないし。
男だったら誰しもそんなのちょっぴり憧れてしまうと思うんだ。


ただ現実的に考えて無理だ、とか。彼女にばれたら怖いとか。
あとはやっぱり、彼女が大事だから、とか……

そういうことを思うから踏みとどまるだけであって。

そうじゃなきゃ世の中にあんなにエロ本が氾濫する訳が無い。


そんな色々と入り混じった溜息を吐く俺に、斎木さんは携帯から顔を上げてニヤリと笑った。


「へぇ。お前川井に惚れてるかと思ってたわ」

「はい? 何ですかそれ」

「んー。今じゃないけど、お前が今の彼女と付き合い始める前? あ。こいつ川井に気があるなって思ったんだけど。外れてた? 珍しいな。大抵当たるのに、俺の勘」


そう言った斎木さんの言葉に俺は驚愕した。


何なんだこの人。
確かに、俺は一瞬、川井さんいいなと思ってたことはあるけど……
時期から何から的を射すぎてて怖い。


「……外れてますよ」


目を丸くしたまま俺がそう言えば、斎木さんは興味を失ったかのようにまた携帯に目を向けた。


「じゃ、そういう事にしておいてやるよ」



仕事が恐ろしくできる男。

部下を大事にする男。

熱い志しを持ち人を魅了する男。

女にモテるが不誠実な男。

厳しく冷徹で他者を顧みない男。

人の気持ちが分かる男。



斎木さんはその全てが同居している人だった。
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