LOVE SICK
(……川井さん、大変な人に惚れたよな)


可哀想に。ほとぼりが冷めたら誰か紹介してあげようかな、とめぼしい独身の友人を俺はピックアップしながら二人の動向を見守っていた。

さすがに川井さんは斎木さんにとって社内で近すぎる立場だ。
仕事上重要なコネクションも持っていなければ、非常にめんどくさい立ち位置だ。
容姿も斎木さんが遊びたがるようなスタイル抜群の美女ではない。川井さんは性格はさておき外見は可愛い系だ。
斎木さんが川井さんに手をだすことないだろう。

いずれ川井さんが想いを持て余し告白をして振られるのか。

それとも斎木さんが上手く立ち回り川井さんを諦めさせるのか。

川井さんは多少は傷つくだろうがそれで済む話の筈だった。



「こうすれば良かった」とか「ああすれば良かった」とか、思いつくのはいつだって手遅れになってからだ。

俺はあの時、嘘でも川井さんが好きだと言えば良かったのかもしれない。

それまでの斎木さんは俺に遠慮してくれていたのかもしれない。
俺が斎木さんくらい人の心が分かれば、そう言うのが正解だったとあの場で気が付けたかもしれない。

いや、遠慮せずに川井さんを好きになっていれば良かった。
そうすれば彼女があんなにも傷つく事は無かったのかもしれない。

でも、斎木さんは俺の気持ちなんて見透かすからそんな嘘は意味が無かったかもしれないし、川井さんを好きになっていたとしても、きっと俺は今の彼女に出会ったら川井さんから彼女に心変わりをしただろう。

それに、そもそも俺の気持ちが斎木さんの抑止力になったとも限らない。



だから、「こうすれば良かった」とか「ああすれば良かった」とか、思いつくのはいつだって意味が無いことばかりだ。
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