LOVE SICK
そんな風に二人と関わってきた俺が、二人の違和感に気が付くのはすぐだった。

とりたてて何かがあったわけでは無い。


「斎木さん。NOCとの契約の件なんですが……」

「ああ。聞いてるよ。おめでとう、よくやったな」

「ありがとうございます」


別に他の人なら不思議な会話ではない。ごく普通の会話だ。
でも俺には不思議だった。
余りにも普通すぎたからだ。

その会社は川井さんが自身の足で営業をして取り付けてきた完全な新規企業。
しかも引き継いだ物件も含めて彼女担当の中で最大手。

川井さんにしてみれば今までで最大の契約だったのだ。


斎木さんだったら川井さんを喫煙室か休憩室に連れ出して話をゆっくり聞いて労ってやるとか、すぐに飲みにつれていく算段をするとか、それくらいの事はしそうな気がしたからだ。

斎木さんが引き抜いた川井さんは社内では誰もが知る斎木さんの“お気に入り”だ。

……因みに俺も社員としてはそうだと思うが俺は斎木の腰巾着と呼ばれている事は知っている。それは余談だ……

とにかく、そんな川井さんに斎木さんがかけた言葉は他の社員と変わらない素っ気ない言葉。
そしていつもなら、斎木さんにそんな風にあしらわれれば寂しそうに熱っぽい瞳で彼を見る川井さんが会話を終えたらスッと自席に戻り淡々と書類の整理を始めた。

おかしいな、喧嘩でもしたのかと思う程だった。
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