LOVE SICK
「……川井さん」
気になって声を掛けた俺に川井さんは肩を弾ませ振り向いた。
「あ……田嶋君。なに?」
川井さんは焦ったように少し頬が紅潮していて、振り向いたのに手は不自然に書類の上に置いたまま。
その手の隙間に文字は見えなかったものの青色の付箋が見えた。
「おめでとう。NOCって大手じゃん。すごいな、さすが鬼の川井」
「ちょ……何それ」
「こないだスタッフの子が“川井さん厳しい”って嘆いてたよ」
「はぁ?誰よその甘っちょろい子!」
冗談を交し合い怒るふりをする彼女は、青色の付箋を手の中にくしゃりと丸め込んだ。
そんな彼女に笑いが込み上げた。
ああそうか。斎木さんと上手く行ったのか。
それなら良かった、と。
川井さんが相手なら、斎木さんも酷い事をしないだろう。
だって社内の人間だ。
あの人は部下を大事にする人だ。
川井さんは斎木さん自ら引き抜いてきた“お気に入り”だ。
きっと上手くいく。
でも、そう思った俺が甘かった。
結局はその後、川井さんはそれまでよりずっと浮かない顔をしている事が多かったし、俺は度々斎木さんに誘われ合コンにも参加したし、ツーショットで写メにも収まった。
斎木さんは俺に川井さんとの話をしたことは一度も無い。
川井さんだって俺に斎木さんの話をしたことは一度も無い。
あくまでも二人は俺にとって仕事上の人間関係だ。
だから俺が気にすることではない。
それでも、それからは斎木さんのアリバイに協力する事に罪悪感が生まれた。
どうか、この相手が川井さんで無ければいい。
何度もそう思った。
相手が知っている人か知らない人かでこんなにも違う感情を覚える。
それでも事なかれ主義の俺は、何をするわけでもない。
俺は、斎木さんの事を詰れない程度に自分勝手な人間だと気が付かされた。
気になって声を掛けた俺に川井さんは肩を弾ませ振り向いた。
「あ……田嶋君。なに?」
川井さんは焦ったように少し頬が紅潮していて、振り向いたのに手は不自然に書類の上に置いたまま。
その手の隙間に文字は見えなかったものの青色の付箋が見えた。
「おめでとう。NOCって大手じゃん。すごいな、さすが鬼の川井」
「ちょ……何それ」
「こないだスタッフの子が“川井さん厳しい”って嘆いてたよ」
「はぁ?誰よその甘っちょろい子!」
冗談を交し合い怒るふりをする彼女は、青色の付箋を手の中にくしゃりと丸め込んだ。
そんな彼女に笑いが込み上げた。
ああそうか。斎木さんと上手く行ったのか。
それなら良かった、と。
川井さんが相手なら、斎木さんも酷い事をしないだろう。
だって社内の人間だ。
あの人は部下を大事にする人だ。
川井さんは斎木さん自ら引き抜いてきた“お気に入り”だ。
きっと上手くいく。
でも、そう思った俺が甘かった。
結局はその後、川井さんはそれまでよりずっと浮かない顔をしている事が多かったし、俺は度々斎木さんに誘われ合コンにも参加したし、ツーショットで写メにも収まった。
斎木さんは俺に川井さんとの話をしたことは一度も無い。
川井さんだって俺に斎木さんの話をしたことは一度も無い。
あくまでも二人は俺にとって仕事上の人間関係だ。
だから俺が気にすることではない。
それでも、それからは斎木さんのアリバイに協力する事に罪悪感が生まれた。
どうか、この相手が川井さんで無ければいい。
何度もそう思った。
相手が知っている人か知らない人かでこんなにも違う感情を覚える。
それでも事なかれ主義の俺は、何をするわけでもない。
俺は、斎木さんの事を詰れない程度に自分勝手な人間だと気が付かされた。