LOVE SICK
「……飲んで帰ると機嫌ワリーんだよ」

「じゃあ飲みに行かなかったらいいじゃないですか」

「……お前な……」


私の冷たい態度に斎木さんは眉を顰めて私を見た。


「支店長だし、そうはいきませんよね」

「……」


分かってるけどね。

支店長になってから、斎木さんは今まで以上に付き合いが多い。
取引先や本社の経営陣、関係企業からの接待もあるのを知っている。

それに、新米支店長として成果を出さなければならない斎木さんにとって、今は大事な一年だ。

私たち社員と飲みにいくのも仕事のうちだと思っているだろう。

特に私と田嶋くんは、この人からしてみれば目をかけてきた後輩の筈。

支店長になって見えにくくなった私たちの仕事振りが気になるだろうし、私たちから見えなくなってしまったかもしれない営業課の内情も聞き出したい筈だ。


「意外と寂しがりやですしね。斎木さん」


分かってはいるけど私が少しからかうつもりでそう言えば、斎木さんは目を丸くした。


それにもともと、この人はだれかと関わってるのが好きな人だ。

飲み会とか社内イベントとか好きな人だし。常に誰かといたい人でもある。

だからこそ、部下の異変にいち早く気が付くと言う、普段の身勝手さからは想像もつかないような特技を持っているし、女性にやたらモテるし、女性関係だらしないのもその一環だろうな。


ただ、そんな斎木さんの奥さんになった人は、私は見ていないけれど美人でかなり気の強い女性だという噂。

新婚で、しかも妊婦で。
出産を間もなくに控えているわけで……奥さんだって彼に支えてもらいたいだろうし。

大体、奥さんだってこの人の独身時代の女性関係のだらしなさを……はっきりとは知らなかったとしても気が付いてはいるだろう。
飲みに行くなんて言われて『はいどうぞ』とは言えないだろう。

どっちの気持ちも分かる気がする。
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