LOVE SICK
お互い難しい時期なのかもしれないな、と他人事ながら想いをめぐらしていれば、斎木さんに急に腕を引かれた。


「ちょっと……」


バランスを崩した私は斎木さんの方に倒れ掛かったけれど、片足を一歩だし、なんとか踏みとどまる。


「二人でもう一軒、行く?」


近付いた距離で、にやりと片頬を上げて笑う斎木さんに、私は呆れて溜息を吐いた。


「行きません。私は帰ります」


斎木さんは本当に……どうしようもない人だな。この人。
私は腕を振り払うとそっぽを向く。


「家に帰るわけじゃねーだろ」

「……っ」


けれど、その言葉に固まってしまった。


「男のとこだろ」


クツクツと笑いながら言うこの人は本当に感じ悪い。
今の会話、どこからからかってたの!?


「分かってるならさっさとどっか行って下さいよ! 誤解されたくないんです!」

「誤解でもないだろ?」

「もう! そーゆーの止めてください!! だから余計嫌なんですよ!」


そうよ。その通りよ!
今から祐さんが迎えに来るの!
会社の人と飲みに行くって言ったら終わったら絶対連絡しろって。迎えに行くって。
本当に祐さんはそういうところ甘い。優しい。

しかも明日は土曜日だから。
私は当然そのまま彼の家にお泊まりをするつもりで……


そんな、これから甘い時間が過ごせるだろうって時に、多分元カレと二人でいるところなんて見られたくないの!

勿論今はやましいことはないし、職場の上司だし、それに祐さんは私と斎木さんが付き合っていたのは知らないけど……
でも嫌なの!!
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