LOVE SICK
それに何より、斎木さんに見られるわけにはいかない。

偶然とはいえ、担当顧客企業の責任者と個人的な関係になったなんて……
支店長に知られるわけにはいかない。

仕事上それは非常によろしくない。


「迎えに来るのあいつだろ。NOCのエリマネ」

「……」


が、この人は気が付いている。

前にも仄めかされた事あったから気が付かれているかもしれないとは思っていたけれど……
こんなにはっきり言われるのは初めてだ。

思わず私は息を飲んでしまった。


「客の責任者に手を出すとか……お前さ……」

「そういうのじゃないし、貴方にそんな事言われたくないんですけど!」


常識的な苦言を呈す口調の彼に、思わず言い返してしまった。

斎木さんの言葉は上司としては正しいけれど、この人と私の過去があって言えるセリフじゃない。


……つまり、今のは、私が上司と部下の関係を一瞬超えてしまったという事だ。
しまったと思い、首を竦めるけれど、斎木さんは私の発言を気に留めた様子も無く溜息を零しただけだった。


「まあ、他の奴にばれなきゃ上司としては知らなかった事にしてやるよ」

「……ありがとうございます……」


平坦な口調で言う彼に、私も拍子抜けしてしまった。
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