LOVE SICK
「……その話なら、ちゃんと聞いてます」

「……あっそ」


私も無表情にそう言えば、斎木さんは少しつまらなそうにまた視線を逸らした。

また、煙草に一本火を付ける。
ゆらゆらと煙が揺れる。

斎木さんのよく分からない言動に私は少し苛々としてきた。
何が言いたいのか、何がしたいのか、よくわからない。


「……本当に、タクシー停めてきますから帰ってくれません? 誤解されるの嫌なんですけど……」


私は不機嫌な声でもう一度言えば、「バカか」と斎木さんは呟いた。


「お前な、こんな所で自分の女一人にされずに済んだのに感謝しない男なら本当にやめておけ」

「……」


私の方を見もせずに言った言葉。

人通りの少ない暗い道、酔っ払いの男の人のが何やら騒ぎながら近づいてきて、それから他の人に諌められて去っていった。
「男がいるからやめとけって……」そう言う、笑い声が聞こえた。



ずるい人だな、と思う。


普段は本当に自分勝手な人なのに。
こういう事を当たり前の様に言うんだから。

普段が我が儘だから当たり前のことをしてもすごく優しく感じるんだ。


……何も言えなくなるじゃない。

仕方なく、私も彼の隣のガードレールに体重を預けた。
スカートが少し汚れるとは思ったけれど、今日のスーツは自宅で洗濯できる安物だし、私も多少酔っているから……立って待つのは辛い。
< 212 / 233 >

この作品をシェア

pagetop