LOVE SICK
「なあ、るう」

「……その呼び方やめてください」


…………この人は……

こっちが精一杯大人な態度で接してるって言うのに……


ぼろ雑巾のごとく捨てられた女がそれでも従順な部下をしてあげてるっていうのに……
いい加減にしてよ……

真面目に仕事の上では尊敬できる人なんだとか、考えていた私の気持ちに水を差したのはこの人の軽薄な声だ。


「本当にあの男と上手くいってんの?」

「しつこいなぁ。上手くいってますって」

「結婚なんてするもんじゃねーって。お前さ、可愛いし仕事できるし家庭に収まるなんて勿体ないって」

「自分の都合でそういうこと言わないで下さい」


あなた私に仕事やめられたくないだけでしょう!?
自分だけさっさと幸せになっておいてそれはないでしょ!


「俺より結構年上なうえにバツイチ子持ちだろ? お前無理してんじゃねーの?」

「……あなたがそれを言いますか……」


どの口が言うのよ。
あなたといた時の方がよっぽど無理してましたから!

不満と呆れを露わに睨めば、少し、彼は苦笑した。


「自分が泣かすのと人に泣かされるのは違うんだよ」


今更、こんな言葉にほだされる訳が無い。

この人が弱さを見せる瞬間は、相手をコントロールしたい時だ。

相手の懐に入り込もうとする時。

そう、私は知ってる。


「ホント……勝手な人ですね」


でもどこか、本当に寂しそうに見えてしまって……

少しだけ、心の裏側がざらついた。
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