LOVE SICK
「なんか俺……」


ポツリと、彼は独白の様に零す。
私は過去の記憶を巡らせる。

この人のこんな仕草は、どんな時だったっけ……

こんな風に寂し気に、独白をするようなのは、どんな時だっけ……


騙されていたとは言え、あれだけ一緒にいたんだ。
私は知っている筈だ。


「女とか結婚とかとは別で、お前は俺のものだと思ってたな……」


でも、こんな事を言うこの人は、私の記憶のどの瞬間とも結びつかなかった。


私は、この人の言葉が本当か嘘かは見抜けない。

また、私をだまそうとしているのかもしれない。

私は簡単になびくって思われているのかもしれない。


「サイテー……」

「無くなってから分かるんだよな……」



それでもそれ以上何も言わない彼に、何故か少し、切なくなった。




月が、私たちを見ている。
夜毎コロコロと姿を変える不誠実な月が……

少し肌寒くなった冷たい風が私たちの間に吹き抜けた。

こんな季節の時、会社の飲み会の後、二人こっそり少し遠くの場所で待ち合わせをしてじゃれあって帰ったこともあったな……

この季節に、貴方の体温が温かいと私は知っている。
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