LOVE SICK
「流石に若い女の子からお金をもらうっていうのもね。男の沽券に関わるんだよ。分かってくれる?」

「あ……はい。そうですね……」


それは、確かにそうなのかもしれない。
いい歳した男性が女性から金銭を受け取るのは抵抗がある、という人もいるだろう。


「可愛い女の子と食事に行けるなら、俺も楽しいし、どう?」

「え……と、食事代でチャラって事ですか?」


そう聞けば、何が面白いのだろう。
クツクツと口元を押さえて笑いだした。


「じゃあ、そういう事にしておくよ。食べたいものは?」

「あ……ありがとうございます! あの、お酒は飲まれますか? 日本食と洋食はどちらがお好きですか?」


職種は変えたとはいえ、伊達にこの地域で4年間営業をし続けてない。
まだ社会人としては下っ端だし、飲み会の幹事も何度もやらされてる。

お勧め飲食店リストを即座に脳内でリストアップ。彼の答えを想定して要望に答えられるお店を探す。


この人はさっき自分は管理職だとチラリと言っていた。
それなりの役職の人だろうし、年齢も私よりずっと上だから、友人同士で行く様な騒がしいお店はダメ。そんなんじゃ謝罪にならない。
それなりに落ち着いた高級な店がいい。
それでいてデートで行くようなムードがありすぎるお店では無くて……


「はは。君は一個の事に夢中になるタイプだろ?」


けれど彼は私の質問に即座には答えず、また何か面白そうに笑いだす。

この人、意外に笑い上戸なのかな?
落ち着いた人かと思ってたのに……


「そうだな。じゃあお酒は飲みたいかな。あまり油っぽいのは遠慮させてもらいたいよ」


我慢できない風に目の端を拭う仕草まで見せてくれて、なんなんだろう……

けれどすぐに気を取り直して、答えてくれたそれに私の頭はもう一度フル回転。


「じゃあそばに美味しい豆腐料理を出すお店があるので……そこでどうですか?」

「ありがとう。楽しみだな」


そう言って、優しく微笑まれれば何となく嬉しくなってしまう。


誰かが『楽しみだ』と言いながら笑顔を見せてくれる。
こういう瞬間が好きだから、だから私は体調を崩しても性懲りも無く又営業なんてしてるんだろう。

難しくて上手くいかなくて……
それで少し落ち込んでいた今日の私を浮上させてくれた笑顔と言葉。


(お詫びなのに……又お礼を言わなきゃいけなくなっちゃう)


カチンとコーヒーを置いて、「行こうか」と促した彼と並んで外に出た。
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