LOVE SICK
見ず知らずでは無い。
多分、知ってる人。
けれど、知らない人。
毎日会っていて、髪型を変えても、服装を変えても、別の場所で会っても。
私は多分、彼に気がつける。
けれど私は、彼の名前も、年齢も、職業も、何も知らない。
声すらも、今日、初めて聞いたんだ。
横に並ぶ彼をチラリと見た。
温く心地よく吹く風に撫でられる柔らかそうなダークブラウンの髪に、触れてみたいなんて思った私は、ちょっとやらしいかもしれない。
少し、赤くなって慌てて視線をそらした。
「そうだ。川井さん。で、よかったよね?」
けれど突然振り向いて驚くべき事を言う彼に、気恥ずかしくなって外した視線が又戻る。
「どうして……?」
「前から気になってたんだ。女性がIDカード付けたまま外出するもんじゃないよ。変な男に声かけられる」
「え……」
慌てて胸元をみれば、それでもスーツの胸ポケットにしまわれたままの首からぶら下げるIDカード。
これを出入り口に通す事で勤務時間を管理されているから、カードを忘れるとオフィスには入れない。
忘れないようにぶら下げて、外に出る時は服の中か胸ポケットにしまってるのがいつものスタイルだった。
「時々、見えてたよ」
そう言ってふっと笑った彼に、頬が熱くなった。
彼を見ていたのは私だけだと思っていたのに……
見られていたなんて……
初夏の湿気を含んだ生温い風は、頬の熱を冷ますのに、なんの役にも立ってはくれない……
多分、知ってる人。
けれど、知らない人。
毎日会っていて、髪型を変えても、服装を変えても、別の場所で会っても。
私は多分、彼に気がつける。
けれど私は、彼の名前も、年齢も、職業も、何も知らない。
声すらも、今日、初めて聞いたんだ。
横に並ぶ彼をチラリと見た。
温く心地よく吹く風に撫でられる柔らかそうなダークブラウンの髪に、触れてみたいなんて思った私は、ちょっとやらしいかもしれない。
少し、赤くなって慌てて視線をそらした。
「そうだ。川井さん。で、よかったよね?」
けれど突然振り向いて驚くべき事を言う彼に、気恥ずかしくなって外した視線が又戻る。
「どうして……?」
「前から気になってたんだ。女性がIDカード付けたまま外出するもんじゃないよ。変な男に声かけられる」
「え……」
慌てて胸元をみれば、それでもスーツの胸ポケットにしまわれたままの首からぶら下げるIDカード。
これを出入り口に通す事で勤務時間を管理されているから、カードを忘れるとオフィスには入れない。
忘れないようにぶら下げて、外に出る時は服の中か胸ポケットにしまってるのがいつものスタイルだった。
「時々、見えてたよ」
そう言ってふっと笑った彼に、頬が熱くなった。
彼を見ていたのは私だけだと思っていたのに……
見られていたなんて……
初夏の湿気を含んだ生温い風は、頬の熱を冷ますのに、なんの役にも立ってはくれない……