LOVE SICK
それから喫煙席に向かい、空席を探して視線を泳がせた。

このお店は換気がしっかりされていて匂いがつきにくい所も気に入ってる理由の一つだったりもする。

カウンター席に一席空いている席を見つけた。

(……あ)

柔らかそうなダークブラウンの少し癖のある髪の男性の隣の席。

(ラッキー)

心の中で少しだけ喜んで、それでも表情には出さずに無関心を装ってその席に掛けた。

隣の席の男性も当然私に興味を向ける筈もなく、こちらを見もしない。
けれどカウンターの上に置いていた新聞をさっと自分の方に引き寄せて私の席に余裕を作る。
今は経済誌に目を通している様だ。

(真面目な人だな……)

フレッシュを入れてスプーンでクルリと混ぜて。
それから、まだ私にとっては熱すぎるコーヒーカップに口だけを付けて横目でチラリと彼を見た。


深い二重の優しそうな瞼。
瞳の色は髪色とお揃いの濃いブラウン。
カップを持つ手は大きくて、男らしい。

身長も高い方だと思う。
何かスポーツでもしているんだろうか。
引き締まっていそうな身体付きにライトグレーのスーツがよく似合う。

多分、年齢は三十過ぎくらいだと思う。

彼も私と同じ。
ここで毎日朝のひと時を過ごす一人だ。
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