LOVE SICK
そうして私はビスケット色に変わったコーヒーを飲んで、彼は又新聞に目を通し始めた。
だから、私は黙った。

黙って目の前の彼を見つめる。

先日迄、こちらを見る事が無かった瞳。
今、私が彼の名前を呼べば、彼は私を見るんだろう。

昨日迄は、隣に座ってもこちらを見る事も無かったのに……


「そんなに、見つめるなよ……何?」


穴が空きそうな程に見つめていた事に気が付かれていたらしい。
動いた瞳が私を捉えれば、性懲りなく心臓がとびはねる。


「……」


目を逸らすのは、今度は私の番。
この瞳は、心臓に悪い。


「……メール位返しなよ。傷付くだろ?」

「それは……っ」


そう言った声に慌てて顔をあげれば、何だか本当に少しだけ傷ついた様な顔。
悪い事をした気分にさせられる。


「……それなら、勝手に帰らないで下さい……」


けどその話なら、分はこちらにある筈。
ホテルに置いてきぼりなんて、遊びにしたってたちが悪い。


「……それは……悪かったよ。一応起こしたんだけどね……昨日は早朝会議で7時迄に会社に着きたかったんだよ」


朝早すぎたから、としおらしく言い訳をされると可愛く見えてしまうのは、私の悪い病気だ。

まぁ、遊びに言い訳なんていらないけれど。
私にこの人が謝る必要も、私がこの人に謝る必要も、どちらも無い。
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