LOVE SICK
「そんな事より、これ」


呑気に会話を楽しんでる場合じゃ無かった。
そんな話がしたくてここに来た訳じゃ無い。

そう言って、クシャクシャになったお札を突き出した。


「……何?」

「なにじゃありません。忘れ物です」

「いや……」

「……まさかホテル代がこんなにするとは思ってないでしょう?」

「けど……」

「私はそんなつもりありません。馬鹿にしないで」


思い出した腹立たしさを瞳に宿してきっぱりと言えば、申し訳無さそうな顔をする彼。


「その通りだ。けど……」

「けどじゃありません」

「……いや」


柏原さんがふっと身を乗り出して、私に近付く。
平静を保つ努力をして、毅然と振るまおうと努力していた私の頭が一瞬でぐらついた。


「……朝から、やめようか。そんな話」


耳元で囁かれて、思わず目を瞑った。
私の、負けだ……

そっと目を開ければ、楽し気なイタズラっぽい表情。


「ね?」


そう言って視線で私に周囲を促した。

……その視線に従って周りを見れば、意識をしない様に、気が付かれない様に、こちらの様子を伺っていたらしい数名の男性が、ぱっと新聞や雑誌に視線を落とす。


「……っ!!」


何も、言えるわけがない。
恥ずかし過ぎる……
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