LOVE SICK
「きゃ……っ」


その瞬間、慣れない鈍い感触が足元にぶつかった。

置いてあった彼の鞄に気が付かず蹴飛ばしてしまった。


あ…これは高そうな鞄なのに……
申し訳ない……


そう思ったのは一瞬。

その直後、鞄に気を取られたあたしのトレイの上にあったコーヒーカップが楽し気にダンスする。
カチャン、と小気味好い音を立ててそれは、ダークブラウンの床に落下した。


「……あ。大丈夫?割れなくて良かった」


心地良いバリトンの声が耳に響く。
声は、初めて聞いた。

思っていたよりも、低い。


彼が転がったカップを拾うと私に差し出した。

彼の声に少しだけうっとりしていた瞬間、私は彼の姿に血の気が引く。


「あ……!! ご、ごめんなさい! ジャケットにコーヒーが……」

「ああ。本当だ。……参ったな……」


彼のジャケットにコーヒーの茶色い染みが飛んでいた。
僅かに残ったコーヒーが落ちる瞬間零れたんだ。

どうしよう……
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