LOVE SICK
『るう。別れて欲しい』


真剣な顔をして言った彼の声は、まだ鮮明に耳に残っている。

結局は2年に及ばなかった彼との付き合いは、波乱が常だった。
一度だって、彼の隣で安心できたことは無かった。


『彼女に、子供が出来たんだ……』


最後の最後まで、心から笑う事なんてできなかったと思う。



……斎木さんに彼女が居る事を知ったのは、付き合い始めて1ヶ月位たった頃だった。

他支店の社員が、取引先が新たに事業所を構えるとかで出張できていた時。
斎木さんと歳も近く親しくしていたらしいその人がなんの気も無く斎木さんに彼女の話題を口にした。
たったそれだけのきっかけ。

遠距離恋愛の、地元の元同級生の女性。
遠くにいるから、中々話し合えないだけ。
関係としては終わってる。
会ってはいない。

問い詰めた私に斎木さんは私にそう言い訳をした。

私は、その言葉を信じたんだ。

多分、信じる振りをしたんだと思う……

斎木さんと、別れたく無かったから……

離れたく無かったから……


好きだったから……


『終わってるって言ったじゃない……』

『ごめん……』


殴ってやろうかと思った。

けど、人の物に手を出したのは私だ。
知ってからも別れようとしなかったのは、私。


『もういい。分かった……』


あっさりと身を引いたのは、傷付きたく無かったからだと思う。
自分も、悪いと思ってたからだと思う。


徹さん……いや、斎木さんに。
はっきりさせなかったのは私。
それでも、私が好きになった人だった。
彼の幸せを願おうと思った。

そう、思ったのに……
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