LOVE SICK
彼から別れ話を切り出された一ヶ月後の朝だった。

別れても会社に行けば毎日顔を合わせ、毎日話をする彼に、傷なんて癒える筈も無かった。

そんな頃。


『今日は二つ、報告があります』


朝礼でそう口火を切ったのは当時の支店長。


『一つ、勘付いてる方もみえるかと思いますが、この春から本社に転任する私に変わり斎木に支店長を務めてもらう事になりました』


当然、最年少での支店長就任を決めた斎木さんに賛辞のざわめきが起こった。

当時の支店長はその頃本社出張で事務所を不在にする事が度々あって、支店としての成績に手ごたえを感じていた支店の社員の間では遂に本社栄転かとまことしやかな噂が流れていた。
そうなれば皆気になるのは次の支店長で、どこそこの支店の支店長が転任してくるのではとか、本社の誰々が支店長になるのではとか囁き合っていて。

そしてもしかしたら、サプライズ人事があるかもしれないと皆で期待と予想をしていたのがまだ若い斎木さんの支店長就任だった。


チーフを務めていた斎木さんの成果は営業課の成果でもあり、ずっとこの支店の営業をしていた斎木さんが本社から認められる事は支店が認められるということでもあって。

だから、支店の多くの人から彼の就任は期待されていて、そして実際多くの人が喜んだ。


『それともう一つ、斎木の結婚が決まったそうだ。相手はお前らも知ってるだろ? 高田商事の担当者だぞ? 上手くやったなぁ斎木』


それから支店長は、辞令の報告とは打って変わって砕けた言葉で楽しそうにそう言って笑った。

矢継ぎ早に報告された朗報にざわめきが更に大きくなる。

女性社員から人気があった斎木さんの結婚に不平を漏らす声も、祝いの言葉も、羨ましそうに飛ばされた野次も。
ただただ、遠くの世界の事の様だった。


立って、居られなくなるかと思った……
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