LOVE SICK
黙った彼の腕を掻い潜って、背を向けて階段に向かって歩き出す。

やりきれない、理解できない想いを抱えたまま……

今度は、彼も止めなかった。


私は、この人が嫌いだ。

この人に傷つけられた。

この人に裏切られた。


そうやって、悲劇のヒロインになり切れたらどんなに楽だろう。
そうして憎んで、心の底から嫌いになれたらいいのにと思う。


私はこの人が最低な男だと知っている。

けれど私は、嫌いだと思ってみたところで、この人に救われた事を忘れられない。

今、ここで少しずつ認められ始めている。
ここで少しずつ、やりがいを感じ始めている。

その全ては、斎木さんに与えられた物だ……


その現実には、背を向ける事は出来ない。


“憎しみと愛情は紙一重”と言うのなら私が斎木さんに今も抱えるこの感情は、愛情なんだろうか。
それは、認めたく無い。


憎しみなんだろうか。
それだけだとも、言い難い。


それでもそこに想いがあったから。

だから残る感情なんだと言う事だけは、間違い無いだろう。
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