LOVE SICK
「……美味しくない?」


けれど仏頂面のままパスタを口へと運んだ私には、笑いを引っ込めて不安そうな顔をするから堪らない。

なんか手の平で転がされてるみたい。
すごい、悔しい。
今日の私の動揺も、私の舌も、私のお腹も、祐さんの思い通りって訳だ。


「……悔しい。美味しい」

「なにそれ」


睨みながら言えば安心した様に、満足気に微笑んでくれた。

その笑顔は子供に見せるみたいな優し気な笑顔で……
不覚にも見惚れてしまっただなんて今は言いたく無い。

だって又、子供扱いされている気にもさせられたから……

こういう所が私は本当に子供なんだとは思うけど。


「祐さんってなんでそんななんでもできるんですか!?」


そんな僅かに不整脈を起こしかけた心臓の音を無視して又理不尽に突っかかってみれば、


「そりゃ。一人暮らし長いからね」


涼しい顔で返された。


私だって短大時代からずっと一人暮らしなのに……
祐さんの作るパスタには敵わないと思う。


……と、いうか。
今の『なんでも』は料理に限った事じゃ無かったんだけどな……


ホッとした表情の祐さんもパスタをフォークに絡め始めて、「茹で時間が少し長かったかな」なんて独り言ちているのを、聞かない振りをした。

そんなに料理が好きなら会社員じゃなくてシェフでも目指せばいいのに……

とは言ってもエリアマネージャーなんてやってる位だから仕事だって多分できるんだろう。
優しくてマメで凝り性な彼は確かに、人の上に立って纏める立場は適任なんだろう。

ついつい、私も仕事の癖で余計な分析をしながら自分より遥かに年齢もスキルも上の人を呆れ気味にながめてしまった。
< 89 / 233 >

この作品をシェア

pagetop