LOVE SICK
「るう? 聞いてる?」


自分の世界に入り込み、思わず無視をしてしまった事をその声で自覚させられて慌てて顔を上げる。

無視したのは……
貴方の笑顔の所為ですなんて、理不尽な言い訳を考えながら。


「えっと……映画、ですか?」

「そう。明日休みだろ?」


暫く彼の顔を見つめた。

偶々貰ったチケットを一緒に使う誰かは本当に他にはいないのだろうか……


「私、ですか?」


水音を聞きながら探るように問えば、珍しく私が呆れた顔で見つめられる。
いつも子供じゃないと言いたくなるくらい、優し気な瞳を見せるのがこの人のスタンスなのに……


「……今この部屋にるう以外に人が居たら……ホラーだよ」

「……ホラー映画はちょっと……」


そんな私にまた、見慣れた優しさの中に楽しさを混ぜた表情で目を細めた。


「恋愛映画みたいだから。男と行くのは微妙だろ?」


ほら。この瞳。
深いダークブラウンが私をざわめかせるんだ。

少し、見惚れていれば、吐水口から霧状に流れるシャワーの水音はそのままに、優しいキスが落ちて来て……
唇が優しく触れて撫でる様なキスにさえ、思考回路を奪われる。
思わずうっとりと、目を閉じてその温もりに酔いしれてしまう……


「るう。片付け終わる迄、我慢して?」


唇を僅かに離して微笑まれれば、それだけで頬が上気する。


「祐さん!?」

「そんな目で見られたら……誘われてるのかと思うよ」


そんな事を言いながら子供にするみたいに髪の毛にキスをされてもう残り少ない洗い物の泡を流す。

私は抗議を引っ込めて、俯くしかない……
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