恋するオトコのクリスマス
~*~*~*~


「ごめんなさい! 本当にすみません、私、水谷さんと久遠先生が付き合ってるって、全然知らなくて……」


奈々子の殺気立った様子に、さすがの志穂も我に返ったようだ。
そして、博樹と奈々子の関係に気づき、すぐさま博樹から離れて頭を下げてくれた。

志穂と揉めていたのは、彼女の婚約者で雪村巽(ゆきむらたつみ)と言うらしい。この暁月城ホテルのレストランに勤めるシェフ・パティシエだった。

その話を聞くなり、奈々子が思い出したように口にする。


「そう言えば……志穂先生って、来年の三月に結婚されるんじゃなかった? フィアンセは幼なじみのパティシエで、夏前に東京から帰ってきたって聞いた気がするんだけど」

「……そうです。でも、パリの有名レストランで学ぶチャンスがもらえたからって。結婚を二年伸ばしてほしいって言われて……」


恋人同士になって来年三月で丸四年になるという。だが、そのうち二年は東京の店に修業に行ってしまい、遠距離恋愛だった。

やっと戻ってきて、具体的な結婚の日取りも決まり、準備も整った矢先……パリ行きの話が浮上。


「でも、志穂先生は二十……二、三くらいじゃなかった? 二年待ってもまだ二十代半ばじゃない。好きだったら、待ってあげればよかったって後悔すると思うわよ」


それには博樹も同意する。その間にどちらかが目移りして結果的に別れたとしても、いくらでもやり直せる年齢だ。

だが志穂は、違うのだ、と首を振った。


「実家が隣同士で、親戚でもあるから、付き合うとき“結婚前提”って言われてたんです。でも彼には、恋愛以上にやりたいことがあるんですよ。私はあの人にとって、結婚しなきゃいけないお荷物なんです」


しんみりした空気が流れる。

奈々子もそれ以上は何も言えないようだ。


「あの……お願いがあります。彼が出発するのは明後日の朝なんです。だから……明日一日だけ、もし何か言ってきたら、恋人のフリして追い払ってもらえませんか? お願いします」


志穂は真剣な顔で博樹に、と言うより奈々子に頭を下げる。

すると、奈々子は少し困った顔をしつつ、仕方なさそうに笑った。

< 19 / 33 >

この作品をシェア

pagetop