恋するオトコのクリスマス
O空港に向かう最終便。国際線中心の和也が滅多に乗らないルートだ。逆に、国内線中心の神谷は週に複数回飛んでいるルートだと聞く。

神谷は二歳年上で腕のいいパイロットだ。和也が副操縦士のころ、この神谷が最年少機長になるのではないか、と噂されていたのでよく覚えていた。

誠実な人柄を表したような隙のない容姿をしており、和也と違って人付き合いもよく愛想もいい。当然、CAやGHの受けもよくて、見かけるときはだいたい女性の取り巻きがいたように思う。
だが、パイロットの中でも悪い噂は聞かないので、女性との交際であくどい真似はしていないのだろう。

そう思っていたのだが……。

三年前、神谷は上司の娘と婚約した直後、浮気相手を妊娠させ、婚約が破談になった。
そのことで会社の上層部に睨まれてしまい、まだ数年は副操縦士のままだろう、という話を聞いた。
責任を取って浮気相手と結婚したというが……。

よくよく聞いてみると、真相は逆らしい。

神谷自身、十年越しの片思いが実ったので、出世などどうでもいいと言う。
機長になれなかった強がり、と笑う連中もいるが……今の和也には神谷の気持ちがよくわかった。


「いいですね、神谷さんは。クリスマスを一緒に過ごすため、奥さんと娘さんが向こうで待っていてくれるなんて。しかも夫婦でイヴの夜にデートとは……羨ましい限りです」


神谷のフライトに合わせ、妻子はひと足先に郷里であるO市に戻って、彼の到着を待っているという。

パイロットの場合、年末年始やGWなど、増便になって仕事が増えても減ることはない。運よく休日に当たれば別だが、自分から休暇など言い出せるものではなかった。

ちなみに、今年の和也はラッキーなことにイヴは休日――のはずだった。
ところがイヴの前日に祖父が倒れたと連絡が入ってしまう。

仕方なく帰省の準備をしていたところに、スタンバイのスタンバイでお呼びがかかる。
ちょうどO市行きの便に予約を入れていたため、どうせならフライト時間に問題のない和也に操縦してほしい、ということになったようだ。

結果的に婚約したばかりの日生歩美(ひなせあゆみ)とも離れ、帰りたくもない実家で最悪のイヴを過ごす羽目になってしまい……。

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