恋するオトコのクリスマス
「わたしは、別にかまわないわ。一日くらいならレンタルOKよ。でも……」


博樹に向かって念を押すように、


「エッチはナシだから。わたしのときと同じことしたら、承知しないわよ!」


後半部分は小声で言う。
だが、奈々子の目は笑ってはいなかった。


「そんなおっかない顔で睨むなって。美人が台無しだよ、奈々子さん」

「こんなときまで茶化さないで!」

「別に茶化してるわけじゃない。――志穂先生、悪いけどそういう方向には手は貸せない。もし彼が会いにきたら、俺は君とは無関係だと正直に話すよ」


奈々子は目を丸くして博樹を見ていた。

一方、志穂は……。


「そう、ですよね。勝手なお願いして、巻き込んで……」

「いやいや、そうじゃなくて。最初から間違いだった、みたいに言われるのは結構キツイからね。男は……酒か女に逃げるか、過労死するほど仕事に没頭するか、どっちかになる」


博樹の言葉を聞き、志穂の表情は固まる。


「そもそも……そんなに面倒な相手とわかっていて手を出すのは、相当な覚悟じゃないかな? それとも彼は、一時の欲望だけで流されるような、ロクでもない男なわけ?」


志穂はうつむき、首を左右に振った。


「ちゃんと向き合って、自分の言葉で思いを伝える。それは、人間関係をこじらせないための基本だ。志穂先生はそのことを知ってるはずだし、ちゃんとできる人だと思うよ」


――数分後、タクシーに乗る志穂を、奈々子とふたりで見送る博樹だった。

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