恋するオトコのクリスマス
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後片づけは免除してもらったが、車で帰宅したとき、すでに零時を回っていた。

志穂とは保護者の名目で同居していたのだが、恋人同士になったとき、それは同棲に変わった。東京から戻ってきたあとも、当然のように一緒に暮らしている。


(久遠とか言ったっけ……あの医者と一緒なのかもな。だったらもう、戻って来ない、か)


東京からきた元外科医で、大病院の息子という話を聞いたことがある。思えば、春先からよく話題に出ていた名前だ。
巽にヤキモチを妬かせるための話題だろう、と勝手に思っていた。


(とんだピエロだ。笑えるな)


だが、パティシエの修業中と言えば聞こえはいいが、収入も将来も定まらない自分とは大違いだ。
駐車場でわずかに言葉を交わしただけだが……条件が揃ってる上に、見た目もよくて、女の扱いも上手い。十人いれば十人とも、女はああいった男を選ぶだろう。

おまけに巽は、好きな子がいればわざと苛めてしまうタイプだった。
どうでもいい女には適当に歯の浮いたセリフも言えるが、本命には気の利いたセリフのひとつも言えない。


(志穂だけは、なんて……いい歳をして、無様だな)


考えれば考えるほど、気分も身体も重くなる。
その重い身体を引きずるように、三階まで階段で上がった。

鍵を取り出し、自分で開けようとした瞬間、ドアが開いた。


「……たっちゃん……」


呻くような声が聞こえ、手にボストンバッグを抱えた志穂が玄関から出てくるところだった。

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