恋するオトコのクリスマス
信じられない言葉を耳にして、巽は何も言い返せない。

すると、彼女はさらに涙を零し始める。


「待っていたい……でも、たっちゃんを自由にしてあげるのが、愛情だってわかってるから……だから……」

「待て。ちょっと待て、志穂……久遠先生が好きなんじゃないのか?」

「久遠先生には……こ、恋人のフリをしてって頼んだの……そしたら、断られちゃった。“ちゃんと向き合って、自分の言葉で思いを伝える”そうしなきゃダメだって。わかってた、わかってたけど、だって……待ってるから、絶対に帰ってきて、わたしと結婚してねって言いそうなんだもの」


巽はとっさに身体を起こし、志穂の両肩を掴んで怒鳴っていた。


「言えよ! なんで言わないんだ!?」

「だって、わたしとの結婚がなきゃ、好きなところに行けるでしょ? たっちゃんだって言ったじゃない――心置きなく、パティシエの修業に励めるって」

「馬鹿か、おまえはっ!?」

「そ……そんな、怒らなくたって……」


巽は上着の内ポケットから、一枚の白い紙と小さなケースを取り出した。

その白いケースを、今にも大泣きしそうな志穂に向かって突き出す。彼女は廊下に靴を履いたままペタンと座り込み、びくびくしながらケースを手に取った。


「――開けてみろ」


巽の言葉に、志穂は無言でケースを開く。

中に入っているのはシンプルなプラチナのペアリングだった。

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