恋するオトコのクリスマス
同時にフライトバッグから手が離れ、バッグはそのまま床に倒れてしまう。

そんなことも気にならないほど、和也はキスに夢中になった。
温かな唇の感触は一度触れたら離れがたい。
歩美を抱き上げ、冗談抜きで押し倒したくなる。


「奴より優秀でカッコいい俺と婚約しながら、羨ましいだと? そんなこと、二度と言えないようにしてやる」


そう言うと、ふたたび唇を押し当てた。

キスの合間に歩美は喘ぐように……。


「五……五分、過ぎ……ちゃうってば」

「始末書くらい、いくらでも書いてやる」


ロビーを通り抜けていく人々から、時折、口笛が聞こえてきた。

いい加減離れるべきか、と思い始めたとき――。


「和也くんのほうが……カッコいいよ。でも、カッコ悪くても、好き……だーい好き」


甘いささやきとともに、歩美の手が背中に回る。


「メリークリスマス、歩美。ホントはイヴの夜を一緒に過ごしたかった。来てくれてありがとう。俺も好きだ、愛してる」


素直な思いを口にして……それは和也にとって、人生で一番幸せなクリスマス・イヴとなった。




                        ~fin~


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