恋するオトコのクリスマス
第2話 married couple 瞬&美夏
「暁月城ホテルまで。なるべく急いでくれ」
神谷瞬は腕時計を見ながら、タクシーの運転手にそう告げる。
パイロットの瞬にとって、簡単に休暇の取れる時期ではない。だが、クリスマス・イヴの今夜は最終便でO市の空港まで飛び、そのままステイと決まっていた。
O市には夫婦の実家がある。年末年始、美夏(みか)は二歳になった娘の愛里(あいり)を連れてお互いの実家を行き来する予定にしていた。そのため、彼女は子供を連れてひと足先に実家に戻り、クリスマス・イヴにデートをする約束だ。
『でも、愛里を置いてふたりで、なんて』
美夏は不安がったが、瞬の実家がぜひ預かりたい、と言ってくれたおかげで彼女も納得した。
クリスマスの二日間、暁月城ホテルのレストランは営業時間が零時までに延長される。普段は二十二時までなので最終便で飛んできたときは間に合わない。クリスマスだからこその計画だった。
瞬は今年三十五歳。
クルーからの信頼も厚く、副操縦士として充分な経験を積んできている。二年前に機長への昇進試験を受ける予定があったが、それがなくなり……どうやら来年も声はかかりそうにない。
彼自身はとくに昇進したいわけではない。
給料は上がるが、それ以上に責任が重くなる。仕事の負担も増え、もともとが生真面目な瞬の場合、ストレスも増えるだろう。
だが、自らの判断で飛べると思えば、それは“男のロマン”とも言える。
チャンスを与えられたときは、全力で挑みたい。しかし、たとえチャンスが与えられなくても、現状に不満はなかった。
唯一気になるとすれば、それは美夏だ。
三年前、瞬は婚約したばかりの上司の娘と別れ、美夏を選んだ。
もともと美夏への失恋がきっかけで出世目的の婚約に走ったのだから、褒められたものではない。
すべて瞬の責任なのだが、彼女は自分を選んだことで、彼が昇進のチャンスを逃したと思い込んでいる。
そうではない、と示すためには、機長になる以外にないのだが……。
(こればっかりは……自分ではどうしようもないからなぁ)
瞬はタクシーの窓からクリスマスのイルミネーションを眺めた。
いつの間にか灯りが増えている。それは市の中心部に入った証拠だ。
ホテルまではそう距離はないことに、彼の心は浮き立った。
神谷瞬は腕時計を見ながら、タクシーの運転手にそう告げる。
パイロットの瞬にとって、簡単に休暇の取れる時期ではない。だが、クリスマス・イヴの今夜は最終便でO市の空港まで飛び、そのままステイと決まっていた。
O市には夫婦の実家がある。年末年始、美夏(みか)は二歳になった娘の愛里(あいり)を連れてお互いの実家を行き来する予定にしていた。そのため、彼女は子供を連れてひと足先に実家に戻り、クリスマス・イヴにデートをする約束だ。
『でも、愛里を置いてふたりで、なんて』
美夏は不安がったが、瞬の実家がぜひ預かりたい、と言ってくれたおかげで彼女も納得した。
クリスマスの二日間、暁月城ホテルのレストランは営業時間が零時までに延長される。普段は二十二時までなので最終便で飛んできたときは間に合わない。クリスマスだからこその計画だった。
瞬は今年三十五歳。
クルーからの信頼も厚く、副操縦士として充分な経験を積んできている。二年前に機長への昇進試験を受ける予定があったが、それがなくなり……どうやら来年も声はかかりそうにない。
彼自身はとくに昇進したいわけではない。
給料は上がるが、それ以上に責任が重くなる。仕事の負担も増え、もともとが生真面目な瞬の場合、ストレスも増えるだろう。
だが、自らの判断で飛べると思えば、それは“男のロマン”とも言える。
チャンスを与えられたときは、全力で挑みたい。しかし、たとえチャンスが与えられなくても、現状に不満はなかった。
唯一気になるとすれば、それは美夏だ。
三年前、瞬は婚約したばかりの上司の娘と別れ、美夏を選んだ。
もともと美夏への失恋がきっかけで出世目的の婚約に走ったのだから、褒められたものではない。
すべて瞬の責任なのだが、彼女は自分を選んだことで、彼が昇進のチャンスを逃したと思い込んでいる。
そうではない、と示すためには、機長になる以外にないのだが……。
(こればっかりは……自分ではどうしようもないからなぁ)
瞬はタクシーの窓からクリスマスのイルミネーションを眺めた。
いつの間にか灯りが増えている。それは市の中心部に入った証拠だ。
ホテルまではそう距離はないことに、彼の心は浮き立った。