わたしの想いがとどくように
「おはようございます」
「おはよう」
幸奈が車から出て、美華子を車に乗せる。
あまり口数が少ない幸奈に、美華子は合わせて喋らない。
幸奈はいつも、美華子の手を握る。それが美華子は嬉しかった。
1度だけ、キスをされそうになったとき、拒否してしまったことがあった。
幸奈はそれから美華子の手しか掴まないし、たまに抱き締められるだけだった。
「今日は、テストですね」
「ああ、忘れてた」
「幸奈なら、大丈夫」
「…ありがと」
幸奈はいつもくすぐったかった。美華子が隣りにいることが嬉しかった。
闇は少しずつ消える。このまま、美華子といたいそう思っていた。
「そういえば、弥生が髪を切った」
「えっ?!何故?」
「わからん」
弥生は結構気分屋な部分がある。今回もそうなんだろうか。
2人が学校に着くと、玄関で上履きに履き替えて、教室に行く。
幸奈が教室に入ると、目を疑った。暁が女の子になっている。弥生がメイクしていた。
「可愛いー!暁美ちゃんだぁ」
暁は、鬘にメイクで女の子にしか見れなかった。美華子が来る。
「あ、美華子!見て!あけみちゃんだよ」
弥生は、暁を美華子の前に出した。暁は、にっこり笑って、女の子の口調で話した。
「初めまして、美華子ちゃん、あけみですわー!」
美華子は笑った。暁は自分を今まで避けていた感じだったので、安心した。なんだ怒ってない。
嫌われてない。弥生は安心した美華子を見て、ほっとした。
「あけみは、今日からクラスのマドンナでーす!」
弥生は暁の両肩を後ろから掴んで、顔をそろえる。
弥生は、美華子が気にしているのを聞いて、心配だったのだ。
暁は、少しためらったが、承諾してくれた。
「幸奈はどう?あけみちゃん」
弥生がいたずらっぽく笑うと、幸奈は答えた。
「綺麗なんじゃないか?」
素直な感想だ。暁はもとの顔が良いので、化粧でだいぶ化ける。
「おー私の魅力を分かってくださるのね~」
暁は、幸奈の唇に指をあてて、顔を近づける。幸奈はそれをよけた。
「バーカ、一般論だ」
「幸奈くん酷い!」
暁は泣く真似をした。弥生が抱き締める。美華子も頭を撫でていた。
なんだかおかしくなって、幸奈も笑ってしまう。
「バーカ!泣くよな」
幸奈の笑顔、美華子はそれを見て嬉しかったが、悲しかった。
自分が引きだしたわけじゃない。
これは、弥生が暁と2人で出した笑顔だ。
自分が見たかった顔は、自分では引き出せない。
弥生は美華子が俯くのを見逃さなかった。
「…ちょっと、お昼に話そうよ」
弥生がそう言うと、美華子は頷いた。幸奈はそんな2人を見ていた。
美華子を気にかける弥生は、優しい顔をしていた。
美華子はなにが不安なのだろう。幸奈は気にかかったが、弥生に任せようと思った。
弥生はきっと美華子の不安を聞いてくれて、解消出来ると信じていた。
暁も、安心した顔をしていた。